ドンホー版画
Tranh Đông Hồ


 ドンホー版画は、バクニン省トゥアンタイン県ソンホー社xã Song Hồ, huyện Thuận Thành, tỉnh Bắc Ninhのドンホー村で伝統的に作られてきた版画で、正式には“ドンホー民間木版画(tranh khắc gỗ dân gian Đông Hồ )”といいます。明らかではありませんが、167世紀頃から始まったと言われます。人々は正月を迎える前にドンホー版画を買い求め、新しい絵を飾って新年を迎えました。1940年代前半までは大変盛んで、村中どの家でも版画を作り、67月頃になると準備にとりかかり、旧正月が近づくと、村のディン(亭)などで版画の市が開かれ、大変賑わっていたそうです。人々は、一年が終わると、また新しい絵に張り替えたのです。しかし1980年代後半以降、需要が減り、近年、ドンホー村のほとんどの家ではドンホー版画に変わって紙製冥器(Vàng mã)の生産が行われています。紙製冥器とは、紙で作られたお金や服、家、車などの模型で、あの世で使えるよう供物として燃やすものです。

現在では、グエン・ダン・チェー(Nguyễn Đăng Chế さんとグエン・ヒウ・サム(Nguyễn Hữu Samさんの、わずか二家族のみが版画作りを続けています。チェーさんは長年大学で教鞭をとってきましたが、退官後、伝統版画を保存するため、版画作りを行わなくなった家々をまわり100以上の古い版木を買戻しました。そして2008年にドンホー版画文化交流センター(Trung tâm giao lưu văn hóa tranh Đông Hồ)をオープンしました。多くの版画が展示され、製作過程を見学したり購入できる他、レストランも併設されています。

 ドンホー版画は4~5色の多色刷りで、紙や色材は全て天然の材料から作られています。紙はディエップ紙giấy điệpと呼ばれる、ゾーの木の皮から作られるゾー紙giấy dóに、貝の真珠層を粉末状にして塗布した光沢のある紙が使われます。色材は、黒は竹の葉の炭、赤は朱色の小石から、青は藍や銅の錆から、黄色は槐(えんじゅ)の花の蕾などから、白は貝柄から作られます。題材は、正月らしい干支の動物や幸福の願いを込めた絵の他、生活の様子、歴史上の人物や、封建時代を風刺したもの(ネズミの嫁入り)などがあり、ベトナムの伝統的な習慣や文化など様々なシーンが描かれています。

 現在では正月に買い求める習慣は少なくなりましたが、ベトナムの伝統文化に触れる観光地の一つとして、内外の観光客が訪れています。



     
 栄花(Vinh hoa): 雄鶏を抱く男の子、
富貴(Phú Quý ):アヒルを抱く女の子。女の子の後ろには、女性の貞節を表す蓮の花。
男の子、女の子が健やかに成長することを願って、対に飾られる。


    
 ネズミの嫁入り(Đám cưới chuột)
封建時代の、ネズミは支配される側、猫は支配者を表す。
猫は下段の馬よりも大きく描かれ、
権力の大きさを表している。
上段は、結婚の祝いの品を猫に献上するところ。
 嫉妬(Đánh ghen)
愛人の髪を切ろうとハサミをふりかざす妻。
夫は妻をなだめつつ、左手では愛人を守っている。
手前には子供も描かれている。


    
  左) 版木を彫る作業も見学できる。
右) ”富貴”の絵は5色から成る。5色の場合、5つの版木が必要。
撮影:2014年3月23日
場所:ドンホー版画文化交流センター
 


 赤、白の色材。左はゾーの木の皮
撮影:2014年3月23日
場所:ドンホー版画文化交流センター
一色ごとに順番に、乾いたら次の色を刷る。
絵柄がずれないよう慎重に色を重ねていく。
撮影:2014年3月23日
場所:ドンホー版画文化交流センター
 


  
初めに赤、最後に黒が刷られる。
撮影:2014年3月23日
場所:ドンホー版画文化交流センター
 


  
 熱心に解説くださる
版画師 Nguyễn Đăng Chếさん
撮影:2014年3月23日
場所:ドンホー版画文化交流センター
牛飼いの笛吹き(Chăn trâu thổi sáo)
ベトナムの農村に欠かせない水牛。
子供の吹く笛の音を聞き、
水牛も楽しそうに足を動かしている。
日差しを遮る傘は蓮の葉。足で抑えている。
撮影:2014年3月23日
場所:ドンホー版画文化交流センター
 


ドンホー版画文化交流センター
撮影:2014年3月23日
 
   
   

ドンホー版画文化交流センター
  住所:Đông Khê, xã Song Hồ, huyện Thuận Thành, Bắc Ninh.

チェーさんの版画はハノイ市内でも購入できます。
 住所:16 Chân Cầm, Hà Nội








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