フン(雄)王
Hùng Vương
<フン王伝説>
ベトナム人は、自らを龍仙の子孫だと考えています。それは、ベトナム最初の国家とされるヴァンラン(文郎:Văn Lang)国を治めたフン王(Hùng Vương)が、龍と仙女から生まれたとされているからです。
フン王伝説は、中国に起源を発します。中国の三皇五帝の一人である神農氏三世の孫・帝明に、二人の皇子がいました。弟が南方に封じられ、赤鬼国の涇陽王となりました。涇陽王は洞庭君の娘・神龍をめとり、生まれたのがラック・ロン・クアン(Lạc Long Quân:雒龍)です。ラック・ロン・クアンはアウコー(Âu Cơ:嫗姫)と結婚し、100男が生まれました。しかしラック・ロン・クアンは龍族、アウコーは僊族(仙人)で、水と火のようなもので二人は相容れないとして、50人が母と共に山へ行き、50人が父と共に南に残りました。その長男がフン王となり、フォンチャウ(Phong Châu:峰州)を都としてヴァンラン国を建てました。フォンチャウは、フート省ヴィエッチー市(thành phố Việt Trì,
tỉnh Phú Thọ)付近と想定され、『大越史記全書』によると、ヴァンラン国は紀元前2879年から紀元前258年まで、18代続きました。18代全てフン王と呼ばれます。BC258年にヴァンラン国は蜀の王によって滅ぼされ、オーラック(甌貉: Âu Lạc)国が建てられました。 → コーロア城を参照ください。
フン王にまつわる伝説として、次のような話が伝えられています。
第6代フン王が、一番美味しい食べ物を持って来た者を後継者にすると告げると、末子のランリエウがバインチュンとバインザーを作り献上し、王位を継承しました。正月料理に欠かせないバインチュンの始まりを伝える話です。→ 正月料理を参照ください。
第18代フン王には媚娘(びじょう)という名の王女がおり、山の精(バーヴィー(傘円)山の精)と水の精(ダー川の精)が求婚し、贈り物を先に届けた山の精に、娘は与えられました。怒った水の精は、毎年洪水を起こし人々を苦しめると言われます。ベトナムの、山の文化と海の文化の対立を象徴する神話です。
<フン神社 Đền Hùng>
ハノイからノイバイ・ラオカイ高速道路を40分ほど走り、ロー川(sông Lô、紅河の支流)を渡ると間もなく、“Đền Hùng(フン神社)5㎞”の標識があります。そこから一般道に下り約10分ほどで到着です。ハノイ中心部からは約1時間半かかります。
フン神社は、フート省のヒークオン(Hy Cương)山※に建てられた、Đền Hạ(下の神社)、Đền Trung(中の神社)、Chùa Thiên Quang(ティエンクアン寺)、Đền Thượng(上の神社)、Lăng Hùng Vương(フン王の墓)、Đền Giếng(ジエン神社)を総称した呼名です。上・中・下の神社は、それぞれ陳朝期(13,4世紀)からグエン朝期(17、8世紀)の間に創建され、18人のフン王を祀ります。その後何度も建てなおされ、最近では1999年から2009年の間に改築されています。山を上りながら、全ての神社や寺を参拝するには約2時間かかります。
1954年9月19日にはホーチミン主席がフン神社を訪れ、「フン王が建てた国を我々が守っていかなければならない。」と呼びかけました。現在もその言葉を記した石碑があります。そしてベトナム戦争時には、フン王伝説は民族団結を鼓舞する建国伝説として注目されました。2007年、フン王の命日(旧暦3月10日)は祝日に制定され、毎年盛大な祭りが行われています。
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左)「高山景行」と記された赤い門は、1917年修築。
年号が門の内側に刻まれている。
撮影:2014年10月25日 |
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下の神社の手前にある石碑。
ホーチミン主席の
「フン王が建てた国を我々が守っていかなければならない。」
という言葉が記されている。
撮影:2014年10月25日 |
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下の神社
17,8世紀創建。建築は前堂と後堂の二の字形。1999年修復。
撮影:2014年10月25日 |
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ティエンクアン寺
陳朝(13,4世紀)創建。創建時の名称は永山古寺(Viễn Sơn Cổ Tự)。
15世紀、ティエンクアン禅寺に改名。18世紀、内工外口型に再建。
20世紀、二の字形に改築。2000年、大規模に修復。
寺の前に、樹齢800年ほどのソテツの木がある。
撮影:2014年10月25日 |
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中の寺
陳朝(13,4世紀)創建。15世紀再建。
グエン朝期に修復。
2009年、大規模に修築され二の字形に。
撮影:2014年10月25日 |
上の寺から中の寺を臨む
撮影:2014年10月25日 |
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上の神社
各フン王が、雨乞いなどの祈願をした場所と伝えられる。
その昔、石の廟が造られ、15世紀に神社が建てられた。
2007年、現在のように修築された。
撮影:2014年10月25日 |
フン王の墓
言い伝えでは第6代フン王の墓である。
昔は土の墓だったが、
グエン朝期(18,9世紀)に廟が建てられた。
その後幾度も修復されている。
撮影:2014年10月25日 |
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ジエン神社
第18代フン王の二人の公主ティエン・ズン(Tiên Dung)とゴック・ホア( Ngọc Hoa)を祀る。
祭壇の前には井戸があり、二人の公主が水面を鏡とし、髪をといたという。
撮影:2014年10月25日 |
フン神社所在地:
フート省ラムタオ県ヒークオン社コーティック村
thôn Cổ Tích, xã Hy Cương, huyện Lâm Thao, tỉnh Phú Thọ
※山の名は、Nghĩa Cương, Hùng Lĩnh,
Hùng Sơnなどの別名があります。
参考文献:
ハノイ歴史研究会講演会“古代ベトナム史―雄王の時代”レジュメ大西和彦
『物語ヴェトナムの歴史』小倉貞男著
『ベトナム民族小史』松本信広著
『ベトナムの事典』石井米雄監修
個々の神社、寺の解説は全て現地の解説パネルを参照。
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