香寺(パフュームパゴダ)
Chùa Hương
~ ベトナムの観音霊場 ~

 
 祭り期間中、多くの参拝者で溢れるフオンティック洞窟
撮影:2013年3月31日

ハノイ市の最も南、ホアビン省やハーナム省との境界付近に、石灰岩の山が連なるフオンソン(Hương Sơn:香山)と呼ばれる地域があります。山の麓や洞窟には寺や神社が点在し、それらを総称してフオン(Hương:香)寺と呼ばれています。15世紀頃から建てられ始め、20世紀初めには、100以上の寺院があったといいます。香寺は、ベトナムにおける最も有名な観音霊場として知られていますが、ここに寺が建てられたのは、昔、インドの興林国の王女・妙善が、この地で修行して観音になったという説話が基になっています。これはもともと中国の宗教劇の台本『宝巻(ほうかん)』のひとつ『香山宝巻(こうざんほうかん)』の話が影響しています。

ハノイ中心部から車で南に約2時間、ダイー河の支流であるイエン川に到着します。香山の全ての寺院を参拝するには何日も要しますが、一日で廻る一般的な参拝ルートは、次の三つの寺社を廻るルートです。イエン川の船着き場を手漕ぎボートで出発すると、まもなく右側に、デンチン(Đền Trình:呈祠)という神社があります。参拝者が、これから香寺に参拝するということを告げる神社です。デンチンには、山の神が祀られています。更に、石灰岩の奇岩を眺めながらのどかな渓流を1時間ほど進むと、チョー(Trò)船着き場に到着します。船を降り、土産物屋が軒を連ねる参道をぬけていくと、広い境内をもつティエンチュー(Thiên Trù天厨寺があります。創建は15世紀の後黎朝第五代皇帝レー・タイントン(黎聖宗:在位1460~1497)の時代です。ティエンチュー寺には、フオンティック(香蹟)洞窟に祀られている観音菩薩と同じ姿で2.5倍の大きさに造られた観音像が祀られています。寺は、抗仏戦争中に爆撃を受けましたが、その後建て直されています。

ここから山路を登っていくと、1時間ほどでフオンティック洞窟に到着します。近年備えられたロープウエーを利用すれば、わずか10分ほどで上がることもできます。香蹟洞門をくぐると、龍が口を開けているようだと言われる巨大な洞窟が現われます。17世紀、この洞窟に、現在最も信仰を集めるフオンティック(Hương Tích)寺が開かれました。石段を下りていくと、洞窟内の左上方の壁面に、南天第一洞と漢字で書かれているのが見えます。ベトナムで最も美しい洞窟という意味で、1770年、チン・サム(鄭森:後黎朝後期の実質上の支配者靖都王:在位1767~1782)の時代に記されました。鍾乳石の垂れ下がる、神秘的な雰囲気を醸すこの洞窟の奥に、祭壇が設けられています。その祭壇の中央に、観音菩薩が祀られています。観音菩薩は“南海観音”と呼ばれ、もともと銅で鋳造されましたが、その後失われ、タイソン(西山)時代(1788~1802)の1793年に石で造り直されたとのことです。像は、右膝を立て、左足を下ろした独特の姿で座っています。観音菩薩は、南海の補陀落(ふだらく)という山に住むと言われますが、ベトナムでは、南海をベトナムの海と考え、南海観音と呼んでいます。洞窟内には、積み重ねられたお米の形に似た「米の岩」や、「娘の岩」、「息子の岩」などと名付けられた鍾乳石があり、それぞれ、豊作や子宝などのご利益を願って、多くの参拝者が手を合わせる姿が見られます。

香寺祭りは、旧暦16日から331日までの約三か月もの長い間続き、観音菩薩の誕生日とされる旧暦219日には、盛大な祭礼がおこなわれます。この時期は、新年の祈願に訪れる参拝者で大変混雑します。

ベトナムの観音信仰は古く、6世紀に中国の王琰(おうえん)が著名な観音霊験譚集『冥祥記(めいしょうき)』を著していますが、その序文に彼が幼時に交趾(こうし:ベトナム北部)で供養した観音像の奇跡が本書執筆の動機と記されています。1049年には、李朝第二代皇帝リー・タイトン(李太宗:在位10281054)が、観音菩薩の夢を見て一柱寺を建立し、観音堂を設けました。観音菩薩は、人々を苦難から救い、女性や子供を護ると信じられ、特にベトナムでは、儒教の祖先崇拝の考えから、子孫を絶やさぬよう、観音菩薩への信仰が強いのです。



 船の出発地点・イエン川船着き場
撮影:2013年3月31日
デンチン (Đền Trình
撮影:2013年3月31日 


 手漕ぎボートで1時間ほどのクルーズ。
撮影:2013年3月31日


  チョー船着き場からすぐに参道を上り始める。
撮影:2013年3月31日
参道には供物や土産を売る店が軒を連ねる。
 撮影:2013年3月31日
 



<ティエンチュー寺>


   
  三関門
撮影:2013年3月31日
 


 花や金剛杵のレリーフが美しい
(三関門)
撮影:2013年3月31日
 金剛杵をデザインした扉
(三関門)
撮影:2013年3月31日
 


    
 鐘楼
撮影:2013年3月31日
 鳳凰や馨をかたどった風鈴
(鐘楼の屋根)
撮影:2013年3月31日
 


  ティエンチュー寺本堂
撮影:2013年3月31日
フオンティック(香蹟)洞窟に祀られている
観音菩薩と同じ姿の観音像(中央)
撮影:2013年3月31日




<フオンティック洞窟>


     
  フオンティク洞窟へ下る階段。
この日は、人・人・人・・・。
撮影:2013年3月31日
 米の岩
その下は、観音菩薩の誕生日とされる
2月19日(旧暦)を祝う垂れ幕。
撮影:2013年3月31日
 


    
 ”南天第一洞、阿弥陀仏”と、岩壁に記されている。
撮影:2002年4月20日
 フオンティック洞窟内の祭壇
撮影:2014年1月19日


     
  滴る水を受けようと、手を延ばすベトナム人達。
皿を掲げる人も。
撮影:2013年3月31日
  フオンティック洞窟
撮影:2013年3月31日



 香寺見取り図
★画像をクリックすると拡大します。
撮影:2013年3月31日
 
   








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