キムラン陶磁器歴史博物館
Nhà Trưng Bày Gốm Sứ Và Lịch Sử Xã Kim Lan

 
 博物館は、アジア建築史研究家の大田省一氏による設計。
登り窯の形をデザインした建物。
撮影:2012年3月20日

有名な観光地バチャン村のすぐ南側に、もう一つ陶器の村があります。キムラン(金蘭)という美しい名を持つこの村の歴史が、近年、考古学者の西村昌也氏・西野範子氏の協力によりひもとかれました。キムラン村歴史研究会の古老が紅河の川べりで茶碗のかけらを発見したのが2000年。自分達の村の歴史を探りたいとベトナム考古学院へ依頼、2001年より西村氏らと考古学院によって発掘調査が行われました。その結果、現在はバッチャン村に名声を奪われているこの村で、昔、高級陶磁器が生産されていたことが判明しました。そして20123月、多くの日本人の寄付や資金援助を受け、出土品の展示と、ひもとかれた村の歴史を紹介する陶磁器歴史博物館が完成しました。

現在キムラン村では陶磁器が生産されていますが、長い歴史の間には生業の変遷、また、ベトナム史の著名な人物や出来事との関わりもありました。

発掘調査によると89世紀頃にはキムラン村のある場所には人が居住していたことがわかり、その頃ハノイを治めていた中国の節度使、高駢(カオビエン)は、紅河が蛇行するこの地点を風水上重要視していたようです。キムラン村に桑の栽培を教えたという記述も史料に残されています。ベトナムが中国から独立した後の長期政権、李朝、陳朝期にあたる1215世紀には、この村に朝廷により管理された工房があったと考えられます。獣面や建物の装飾品など、普通の農村では作られないような物や、朝廷が管理していたことを示す“官窯”の文字が記された皿などが出土したことから推測されます。現在の技術でも難しい、コバルトと鉄を同時に使って絵付けされた陶器もこの村から発見されました。最も出土品が多いのは1314世紀の陳朝期で、その頃活発に生産されていたことが窺われます。15世紀初め、レーロイ(黎利)が明(中国)を撃退した時、キムラン村はバッチャン村などと共にレーロイ軍の拠点となりました。

しかしその後、1617世紀頃から長い間陶磁器産業が途絶える時期をむかえます。1617世紀頃は青銅鋳造、19世紀初めには養蚕業を生業としました。そして20世紀になり、1950年頃バッチャンに窯業合作社が作られ、キムラン村からも工員が集められました。窯業技術を得たキムラン村は、1980年生産自由化後、陶器を生産販売するようになり、4500年もの長い間途絶えていた窯業がキムラン村に復活したのです。

 ベトナムの陶磁器技術は北属期に中国から伝わり、独立後は中国と同等、時にはより質の良い物までも作られ、海外に輸出され日本にももたらされました。博物館にはキムラン村出土品以外にも、ベトナム各地やアジアの陶磁器、更に最近の陶芸作家の作品の展示、またアジア陶磁器全般にわたる日本語の解説パネルがあります。キムラン村から視点を広げ、陶磁器についての理解も深めることができる博物館です。バッチャン村から車で10分、是非足をのばしてみてください。

 

      
 龍が描かれた緑釉印花椀。
鮮やかな緑色が美しい。 
11~12世紀、キムラン村出土
撮影:2012年11月23日
29、30:白磁蓮花貼花壺
32:観音菩薩像
33:仏塔模型
11~12世紀、キムラン村出土
撮影:2012年11月23日 


 中央に”官窯”の文字のある皿
13~14世紀、キムラン村出土
撮影:2012年11月23日
ホイアン沖沈没船から発見された陶磁器
15世紀
撮影:2012年11月23日


      
 歴史研究会見学会で
熱心に解説くださる西村氏
撮影:2012年11月23日
ベトナムのその他の地域の陶磁器
手前の、丸い穴の開いている壺は、チャウカウに使われる”石灰壺”
撮影:2012年3月20日
 


     
 かつて使用されていた登り窯の模型
(現代の陶芸作家による作品)
撮影:2012年3月20日
 現在使用されている煙突窯の模型。
煙突窯の特徴は、大量に積み上げられることで、同じ規格の品物を大量生産するのに向く。
(現代の陶芸作家による作品)
撮影:2012年11月23日


 博物館に隣接する祠
李朝期にキムラン村に移住した、
現在の広西壮族自治区(中国)出身の
阮石越(Nguyễn Thạch Việt)が祀られている。
彼が陶磁器技術を伝播した可能性も。
撮影:2012年11月23日
 博物館は村の人民委員会の敷地内にあり
その入り口には、
ベトナムの伝統的なディン(村の鎮守社兼集会所)など
で見られる四本柱が立つ。
撮影:2012年11月23日


      
 炭と土を混ぜて炭団が作られる。
撮影:2012年11月23日
炭団は、壁に貼り付けて乾かす。
撮影:2012年11月23日 

 
 煙突窯
撮影:2012年11月23日
 

<場所> ハノイ市ザーラム県キムラン社(“社”は、村にあたる呼び名。)
キムラン社人民委員会Ủy Ban Nhân Dan Xã Kim Lanの敷地内。
行き方:バッチャン村へ向かう堤防上の道を行き、バッチャン村の入り口を通り過ぎ、バックフンハーイ運河Bắc Hưng Hảiを渡り、一つ目の角を右にはいり、道なりにしばらく行くと右にあります。



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<開館> 土日:84時頃(112時は昼休み)
月~金は隣接するキムラン社人民委員会公安部に、鍵を開けてもらうよう頼んでください。



2012年3月20日に行われたキムラン社陶磁器歴史博物館開館式の様子


      
 間もなく扉が開かれる。
左から5人目は、
博物館建設の支援者の一人である江本孟紀氏。
博物館設立に尽力された、
笑顔の西村昌也氏 


   
 熱心に展示品を見る村人 式典は多くの列席者に見守られた。 




西村氏が代表を務める東南アジア埋蔵文化財保護基金のホームページ:
http://www.geocities.jp/nixi_archaeology/



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