ラン・オン通り
Phố Lãn Ông

 
 撮影:2012年7月3日
場所:ランオン通り、ハノイ

ハンブオム通りからハンヴァイ通りまで東西に走る通りがラン・オン通りです。この通りは、もともと福建(中国南部地方)人の居住区だったところで、フッキエン(Phúc Kiên=福建)通りと呼ばれていました。通りの40番地には「福建会館」の建物が残っています。 この通りは、漢方薬店が建ち並んでいたことから1940年代終わりにラン・オン通りと改名されました。

 ラン・オン(Lãn Ông)とは、18世紀の名医レー・ヒュウ・チャック(黎有晫Lê Hữu Trác 1724-1791)のことで、筆名をハイ・トゥォン・ラン・オン(海上懶翁 Hải Thượng Lãn Ông)といいました。ラン・オンには、「怠け者のおじいさん」の意味があります。これは、当時の優秀な人は皆、科挙の試験を受け官吏になるのが普通であったのに対して、それを嫌って試験を受けようともしなかったので「怠け者」と自称したのですが、彼は幅広い知識を持ち、生涯を通じて医学に専念しました。当時から有名な人物で、タンロン(当時の首都ハノイ)に招かれて、実質上の支配者鄭氏第9代の当主チン・サム(鄭森 Trịnh Sâm 1767-1782)の子の治療にあたったこともありました。価値ある医学書を数多く残しており、これらはベトナム伝統的東洋医学の大きな遺産であるとされています。タンロンに滞在中の様子を『Thượng kinh ký sự』(上京記事)として書き残していますが、その中で、タンロンから母の故郷(現在のベトナム中部ハーティン(Hà Tĩnh省)へ帰る時、現在のハンチュオイ(Hàng Chuối)通りの頭の部分のあたりから船に乗って帰ったと記しています。18世紀当時、ホアンキエム湖は今より大きく南北に長く、ホン河と通じていたのです。文廟近くのゴー・シー・リエン(Ngô Sĩ Liên)通りには、ランオンを祀る「医廟」(Y Miếu)があります。 


旧福建会館 (現紅河小学校Trường Tiểu Học Hồng Hà

 ラン・オン通りに、「福建会館」の文字が残る門があります。現在は煉瓦造りの門と、中庭を挟んで奥に木造の中国建築が残っているだけですが、1816年の建築当初は、中国福建省に伝わる天后(下記参照)を祀り、北部ベトナムに暮らす福建華僑社会ネットワークの中心でした。また、中越戦争(19781979)華僑がハノイを離れるまで、「中華小学」という福建人のための学校でもあったそうです。
 資料によると、かつてここには4つの碑があり、福建から天后像を迎えたことなどが刻まれていました。1925年頃の会館修復の出資者居住地を記した祈祷書には、ハノイを中心に北部ベトナム一帯の地名が見受けられます。現在は小学校になっている為、敷地内に入ることはできません。

<旧福建会館住所> 40 Lãn Ông, Hà Nội
 

天后(媽祖)

天后(媽祖)はもともと中国南部沿岸地域を中心に民間で信仰される女性神でしたが、今では航海の守護神として日本を含めアジア各地の廟に祀られています。媽祖(推定960年~987)は中国福建省蒲田市湄洲の漁村の巫女でした。人の禍福だけでなく天気の予知にも優れていた媽祖は、多くの商船や漁船を海難から救い、注目されるようになりました。媽祖は死後、地元の航海守護神や伝説と合体し、また観音菩薩の化身とみなされるなどして、13世紀後半には海の守護神として、一地方にとどまらず広く人々の信仰を集めるようになりました。更に華僑が海外に進出するにつれ、媽祖信仰もアジア各地に伝播し、次第に根付いていったのです。媽祖は元代には「天妃」、清代には「天后」と封号されました。


 漢方薬の臭いが漂うランオン通り。
車通りはそれほど多くない。
撮影:2012年7月3日
 


高麗人参や殿七人参(写真左)、羅漢果や菊茶、アーティテョークなどの薬効のあるお茶(写真中央)、
クコの実やナツメ、乾燥ロンガン(写真右)などが売られている。
撮影:2014年9月3日
   


    
 もと福建会館。現ホンハー(紅河)小学校の門
撮影:2013年12月8日
寿の字をデザインした透かし窓と、
その四つの角にはコウモリのレリーフ。
撮影:2013年12月8日 


    
 門に記されている”福建会館”の文字
撮影:2005年頃
 門の柱の上部には、精緻なレリーフ施されている。
撮影:2013年12月8日


    
 福建会館の建物
撮影:2013年12月8日
建物の扉
撮影: 2013年12月8日
   
   




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