ファッジェム教会

Nhà Thờ Phát Diệm

~ 独特の越仏折衷・石造りの教会 ~

 
 大聖堂(聖母礼拝堂)
撮影:2011年9月20日

ハノイから東南へ120kmのニンビン省にあるファッジェム教会は、東南アジア最大の規模を誇る木造・石造建築です。ベトナムにおけるキリスト教の布教は16世紀中ごろに始まり、カトリックの宣教師によってハノイの東南に広がる紅河デルタの貧しい農民に広がりました。幾度も時の権力者に迫害を受けながらも信仰され続けてきました。現在でもこの地域はカトリック信者の比率が高く、多くの教会が点在します。中でもこのファッジェム教会は池、鐘塔、大聖堂、それを囲むように五つの礼拝堂と三つの岩山で構成されています。設計もすべてベトナム人によって行われたこの教会は、24年(18751899)の歳月をかけて造られました。東洋と西洋の建築様式が融合し合い独特な雰囲気を醸し出しています。


<池・広場>

 教会の前には、風水思想を取り入れて池が配置され、池の中央には両手を広げすべての人に救いの手をさしのべるキリスト像があります。広場で向かい合っている像は、左側がキリストから「天国の鍵」を授けられたペテロ、右側は福音宣教のしるしである剣を持つパウロです。


 
教会の前の池。池の中に築山が置かれ、キリストが立つ。
池は1ヘクタール近くもある。
撮影:2012年2月12日


   
 天国の鍵を持つペテロ(十二使徒の一人) 剣を持つパウロ 
撮影:2012年2月12日 


<鐘塔(方亭)>

 広場に面した建物は「鐘塔」です。ベトナム仏教寺院に見られる三関門(三つの入り口)と優美に反り返った瓦屋根が特徴で、ベトナムの村の亭(集会所)をイメージされた建物です。中央に置かれた大きな一枚岩はベトナムの伝統的な椅子兼食卓で、「最後の晩餐」を象徴しています。20トンあるこの岩は、30㎞離れた胡朝(14001407)の西都城跡(タインホア省)から運ばれてきたものです。最上階には梵鐘があり、ラテン語と中国語で刻印されています。四隅の塔の頂には袈裟をまとった聖人(マルコ、ルカ、ヨハネ、マタイ)が見守っています。

 
 鐘塔
撮影:2012年2月12日


      
 最上階にある梵鐘
(ガイド同行でのみ上に上がれます。)
 「最後の晩餐」を象徴する一枚岩
撮影:2012年2月12日 


 
東洋風の竹状の欄間(鐘塔一階)
撮影:2012年2月12日


 鐘塔と大聖堂の間には、34年間司祭を務め、この教会の建造に力を注いだチャン・ルック司祭(18251899)の墓所があります。

 
 チャンルック司祭の墓所。
タインホア出身と記されている。
撮影:2012年2月12日

 

<大聖堂(敬マンコイ聖母礼拝堂)>

 
 大聖堂
撮影:2008年2月2日

 大聖堂は10年の歳月をかけ、1891年に完成しました。1972年、アメリカ軍の攻撃による爆風で屋根を吹き飛ばされる被害にあいましたが修復されています。中央塔の頂には二人の天使が十字架を持ち、その両脇には天使がラッパを吹いています。その下には、神がこの世を裁く日の前の啓示という意味の「審判前兆」の文字があります。入り口の上部の壁面にはキリストと聖母マリアの生涯を15のレリーフに描いています。その下にはたくさんの天使と共にマンコイの花の浮彫が施されています。それぞれの入り口の壁面には聖水を持った天使が彫られています。

 ベトナム語でマンコイ(mân côi ̣)の花とはバラの花のことで、聖母マリアを象徴する花です。


 
 中央塔の頂の天使
撮影:2012年2月12日


 
 キリストと聖母マリアの生涯 ・ 花のレリーフ (大聖堂入り口上部)
撮影:2008年2月2日


内部に入ると、高い天井まで伸びる何本もの柱が壮大です。以前はベトナム産のリム(鉄木)の木だけが使われていましたが、近年の修復では国内だけでは調達できず、ラオスからも取り寄せました。祭壇は仏教寺院のように漆と金箔で覆われ、中央のマリア像のまわりには聖人、上部にはキリストと殉教者が描かれています。


 
大聖堂の祭壇
撮影:2011年9月20日

     
 聖ドミニクスにロザリオを授ける聖母マリア。(一番上部)
聖ドミニクスはマリアに対する「ロザリオの祈り」を創始したと伝えられる。
周囲にはマンコイの花。
殉教者を表す棕櫚の枝を持つ。 
撮影:2012年2月12日 



 
大聖堂を支える壮観な柱 (大聖堂内部)
撮影:2011年9月20日 

 

   
 大聖堂側面の獅子の透かし彫り まるで仏教寺院のような大聖堂側面 
撮影:2012年2月12日 


<ルルドの山 ・ ゴルゴタの丘>

大聖堂の後方には、聖母マリアが1858年に少女の前に出現したとされるフランスの「ルルドの山」、キリストの誕生地である「ベツレヘム」を表した岩山、キリストが処刑された場所を表す「ゴルゴタの丘」があります。ベツレヘムの岩は、沼地だったこの一帯の土壌が、石を多く取り入れた設計にどれくらい耐えうるか調べるために、1875年、教会堂建築前に築かれました。

 
 左手前に一対の象が置かれたルルドの山
撮影:2012年2月12日

 


<石の礼拝堂>

 
聖母マリア(正面上部)
撮影:2011年9月19日

「石の礼拝堂」は、1883年に最初に造られた礼拝堂で、すべてに大理石が使われています。別名「聖母の心臓礼拝堂」とも呼ばれ、正面上部にある聖母マリアの心臓には剣が突き刺されていて、キリストを失った苦しみが表されています。両端の塔はホアンキエム湖のほとりにある玉山祠の入り口に建つ筆の塔を模しています。




   
 石の礼拝堂内部 石の礼拝堂 
撮影:2011年9月19日 

 壁には石の連子窓がはめ込まれ、また東洋的な松竹梅菊や鳳凰の透かし彫りがあり、そこから差し込む光が厳粛な雰囲気を醸し出しています。祭壇の中央下に聖母の心臓、左右には貞潔を示す封印された井戸と窓の柵にかけられた鍵の形の彫刻が施されています。また、祭壇の横側には人間の一生を象徴している蓮のつぼみ、開花、枯れた姿の彫刻があります。中央の葉には十字架が描かれています。

 
 聖母の心臓(祭壇の下)
撮影:2012年2月12日


   
  
筆と硯を加えた鳳凰の透かし彫り(石の礼拝堂)
大聖堂背面にもあり。
人面獅子の透かし彫り(石の礼拝堂)
撮影:2011年9月19日 


 
 東洋風の連子
撮影:2008年2月2日



 
 チャンルック司祭の胸像(大聖堂の後ろ)
撮影:2008年2月2日


 
 聖ロコ礼拝堂 主の心臓礼拝堂 
撮影:2012年2月12日 


   
聖ペテロ礼拝堂  聖ペテロを象徴する天国の鍵の透かし彫りがある
(聖ペテロ礼拝堂)
撮影:2012年2月12日 



 
 聖ヨゼフ礼拝堂
撮影:2012年2月12日



 
 ファッジエム教会見取り図

 

参考資料: The Cathedral Phát Diệm, The Religious Publishing House 2002




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