ベトナムの古都ホアルー

Cố đô Hoa Lư華閭

 
近年新しく建てられた東門
撮影:2014年8月7日
場所:古都ホアルー
 
 

古都ホアルーは、ハノイから南へ約90kmのニンビン(Ninh Bình省に位置しています。ハノイから1号線を下ると、周囲は石灰岩の山が連なる景色へと変わっていきます。2時間ほどでニンビン市内に入り、右へ曲がって間近に迫る岩山の間を走っていくと、古都ホアルーに到着します。東門と書かれた門をくぐると、二人の王を祀るそれぞれの廟があります。ここには今から千年前、ディン(Đinh丁)朝(968980)と前レー(黎)朝(9801009)の二つの王朝の都が置かれていました。いずれも国名はダイコーヴィエット(Đại Cổ Việt大瞿越)と呼ばれました。

ベトナムは、939年に千年に及ぶ中国の支配から脱し、独立を勝ち取りますが、わずか5年後、12使君と呼ばれる地方豪族が各地で割拠する時代に入ります。その中から、ディン・ボ・リン(Đinh Bộ Lĩnh丁部領)が平定し、968年、ディン朝を開きました。ホアルーに都を置いたのは、自身の出身地で活動の本拠地であったこと、天然の要害であり、またダイラ(Đại La大羅:現ハノイ)は中国寄りの勢力が優勢であったことなどがあります。ディン・ボ・リンには様々な伝説が残っています。ディン・ボ・リンはカワウソの子で気性が激しく、敵軍が自分の息子を人質にした時、脅しにもひるまず逆に息子目がけて矢を乱射したので、敵は驚き軍を引き返したといいます。また帝位についてからは、城門に煮え立った油の入った大鍋(鼎)と虎の檻を置き、法を守らない者はそれらで処刑するとして人々に恐れられたということです。国を統一したばかりで、人々を厳しく治めたことが想像されます。

ディン・ティエンホアン(Đinh Tiên Hoàng丁先皇:ディン・ボ・リンの諡)には3人の子がいましたが、後継者争いの末、幼い次子ディン・トゥエ(衛王)が帝位につきます。将軍レー・ホアン(Lê Hoàn黎桓)が摂政となりましたが、この機に乗じて宋(中国)が侵略してくる気配を察した家来達の推挙により、レー・ホアンは皇帝となり、幼帝は廃されました。レー・ホアンは、レー・ダイ・ハイン(Lê Đại Hành:黎大行)と称し、前レー朝が始まりました。しかし前レー朝もわずか29年で終わり、王朝は近衛軍司令官として前レー朝に仕えていたリー・コン・ウアンLý Công Uẩn:李公蘊:李朝初代皇帝)に引き継がれ、都はタンロン(昇龍:現ハノイ)に移されたのです。

二人の王を祀る廟のまわりを見渡すと、石灰岩の山に囲まれた谷間に位置していることがわかります。宮殿は、W字形に連なる岩山を天然の城壁とし、その谷間に築かれていました。W字形の西側が内城、東側が外城で、W字の開いたところには土とレンガの城壁が築かれ、北西を流れるホアンロン江は、天然の堀となっていました。王廟が建てられているのは、外城だった部分です。ホアルーは紅河の南西を流れるダイー川の近くで交通の要衝でもありましたが、千年前はすぐ近くまで海が迫り、低湿地で寒く、土地も狭い所でした。そのため、タンロンに遷都されたと考えられています。

このように、都としての座はわずか40年ほどの短期間でしたが、ホアルーとその周辺はその後も重要な役割を担いました。陳朝期(12251400)にはホアルーの南に武林離宮が建てられ、軍事、宗教の拠点とされました。陳朝第3代皇帝仁宗は、武林離宮の太微宮で修行し出家しました。また、ホアルーには、ディン朝時代の経柱(仏教の経典を刻んだ石碑)が数多く残されています。経柱は唐の時代に中国で多く作られましたが、その影響を受けたことを伝える仏教遺跡です。

古都ホアルーから3㎞のところには、風光明媚な景色を眺めながらボートクルーズを楽しむことができるチャンアン(Tràng An)渓谷が隣接しています。ホアルーを含むチャンアン名勝遺跡群は、20146月に世界複合遺産に登録され、歴史遺跡と自然を誇る観光地として注目されています。



 ホアルーは石灰岩の山に覆われ、渓谷には蓮が咲く。
撮影:2014年8月7日
場所:古都ホアルー東門付近
 岩山の間に広がる田畑
撮影:2012年2月12日
場所:二人の王を祀る廟の間


   
W字に連なる岩山を天然の城壁とした(ピンク色で示した部分)。
ホアルー城略地図

ヴ・タム・ラン『ベトナム古跡集』
(建設出版社、ハノイ、1998年)より、加筆作図
 


ディン・ティエンホアン廟(Đền Đinh Tiên Hoàn

   
ディンティエンホアン廟の第一の門
撮影:2014年8月7日 
2本の門柱の奥が、ディンティエンホアンを祀るお堂
撮影:2014年8月7日 
   
 お堂の前の、”龍の庭”に刻まれた龍
撮影:2014年8月7日
ディンティエンホアン像
撮影:2008年2月2日 

 

レー・ダイハイン廟(Đền Lê Đại Hành


      
レーダイハインを祀るお堂
撮影:2014年8月7日 
レーダイハイン像
撮影:2008年2月2日 
 お堂には、たくさんの龍のレリーフが施されている。
撮影:2014年8月7日
宮殿の土台跡の発掘現場を保存した博物館。
撮影:2014年8月7日
場所:レーダイハイン廟の裏手
 


チャンアンTràng An渓谷


 澄んだ水に木々の緑が映り、
また、水面下には沢山の水草が見える。
撮影:2014年8月7日
ボートクルーズでは沢山の洞窟をくぐる。
撮影:2014年8月24日 
 撮影:2014年8月24日  撮影:2014年8月24日






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