クアンホ民謡
クアンホとは、男女のグループが集まって歌を掛け合う「歌垣」に似た民謡で、ベトナム北部のキンバック(Kinh bắc:京北)地方で生まれました。キンバックとは、都の北という意味で、現在のバクニン省とバクザン省の境界あたりをいいます。2省の境界を流れるカウ(Cầu)川の北岸(現バクザン省)と南岸(現バクニン省)に、クアンホ村がありました。多くのクアンホ村が現在のバクニン省に位置しているため、現在では「クアンホの故郷はバクニン省」とも言われます。20世紀初めには、キンバックの地に49のクアンホ村があったといいます。 クアンホは、グループを作って歌います。4,5人から成る、男性のグループや女性のグループがつくられ、春(旧暦1~2月)と秋(旧暦8月)の村の祭りの時に集まり、歌い合いました。多い村では10ほどのクアンホグループがあったそうです。男性グループはリエンアイン(Liền anh)、女性グループはリエンチ(Liền chị)と呼ばれます。小さい頃から歌を覚え、16,7才になって200ほどの歌が歌えるようになり、教養や礼儀も身につけて初めて、祭りに出ることができました。恋愛や友情のほか、故郷への郷愁などを詠ったものがあり、一方のグループが歌ったら、もう一方のグループは先の歌と同じメロディーに異なる歌詞をつけて歌い返します。先の歌が、ある詩の一部分であった場合、返す歌も、その詩の中の言葉でなくてはいけないなどのルールが決められています。日が傾くと、別れを惜しみながら見送り合いますが、祭りの後に、家に招いて夜更けまで歌う場合もあります。家ではキンマやお茶をふるまい、誠意を込めてもてなします。掛け合いの歌の他、慶事や神事、雨乞いなどの祈願、厄除けなどにも唄われました。 クアンホには、グループ同士が交友関係を結ぶユニークな風習があります。村によって2,3年で関係を解消する場合、一度結んだら一生続ける場合、また世代を超えて関係を結び続けるグループもありました。関係を結ぶと、誘い合って祭りに行ったり、メンバーはクアンホ以外の場面でも助け合ったりします。しかし一旦この関係を結ぶと、メンバー同士が結婚することは禁じられていました。歌の掛け合いの起源は、求愛そして結婚相手を探すことだったはずですが、伝統文化として発展していく中で、このようなルールが生まれたのでしょう。 有名なクアンホの歌を紹介します。 “Cây trúc xinh” 美しい竹 クアンホを歌う場ではそれぞれを本名で呼ばず、女性はchị hai(2番のお姉さん)、 chị ba(3番のお姉さん)、男性はanh hai(2番のお兄さん)、anh ba(3番のお兄さん)のように番号をつけて呼びました。
クアンホは、衣装や小物も伝統的なスタイルで行われます。男性は2枚重ねの丈の長いゆったりした衣(外側は透ける素材で通常黒色)に白いズボンで、黒い傘をさします。女性は鮮やかな色(通常は赤)の「イエム(Yếm)」(胸当てのようなもの)の上に長い衣、長いスカートをはきます。そして頭には、「カラスの嘴(khăn mỏ quạ)」と呼ばれる黒いスカーフを被り、円形の菅笠を手に持ちます。 このようにクアンホは、歌だけでなく、衣装やもてなし、風習を含めた独特な文化です。現在クアンホが行われる最も有名な祭りは、毎年旧暦1月13日に開催される、バクニン省リム村のリム祭りです。村のホンアン寺(chùa Hồng Ân)のある丘や、ディン(亭:村の集会所兼神社)などで唄われます。伝統的なクアンホにはもともと伴奏はありませんでしたが、現在では伴奏を伴い上演されます。ベトナムの貴重な伝統文化として、2009年には世界無形文化遺産に登録されました。 リム祭り: バクニン省ティエンズー県リム市のリムの丘 <リム祭り>
伝統的なクアンホとは若干異なりますが、劇場の舞台や、その他の祭りなどでも行われます。
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