ザウ寺
Chùa Dâu

~ ベトナム仏教初伝の地・法雲仏を祀る ~

 
 ザウ寺
手前は回廊。その向こうに和豊塔が見える。
撮影:2014年7月17日

 ザウ寺は、ハノイの東約20kmのバクニン省トゥアンタイン県、ドゥオン河の南側に位置しています。西暦紀元初期の頃建立された伝えられ、この地域に桑畑が多かったことから、ザウ(=桑)寺と呼ばれていますが、正式名を延應寺(Chùa Diên Ứng)、また法雲寺とも呼ばれます。ここはベトナムが中国の支配下にあった北属期、ベトナム北部の中心であったルンケー(Lũng Khê)城(またはルイラウ(Luy Lâu 羸樓)城)があった地で、寺は城跡のすぐ南にあります。今から約二千年前、仏教がインドから海路でベトナムに伝わり、ザウ寺は布教の中心地であったと言われます。仏教が、もともとベトナムにあったアニミズム、女神信仰と混合して生み出された法雲仏が祀られています。 


<法雲仏>

ベトナム最古の説話集『嶺南(れいなんせきかい)』と、ザウ寺の縁起によれば、紀元23世紀、ドゥオン河の南岸に建てられた福厳寺に、インドから渡来したカラジャレイ(伽羅闍黎)またはキュウダラ(丘陀羅)というバラモン僧がいました。僧が、信者の一人であった蛮娘(Man Nương)という少女をまたぐと、女児が生まれ、カラジャレイがこの女児を榕樹(ようじゅ;ガジュマルのこと)の穴に入れました。そして呪文をとなえると、穴は自然に閉じたといいます。この榕樹が河の中に倒れ、福厳寺まで流れ着きます。誰も動かすことができなかった榕樹を蛮娘が引き上げ、その榕樹で四体の仏像を彫り出しました。その頃大干ばつがあり、人々がこれらの仏像に祈ると大雨が降ったといいます。そこで四体の仏像は法雲仏、法雨仏、法雷仏、法電仏と名付けられました。法雲仏はザウ寺に、法雨仏は成道寺に、法雷仏は悲相寺に、法電仏は智果寺にそれぞれ祀られました。農業国であるベトナムにとって、稲作に必要な雨に関わる雲や雷などの天然現象と結びついた、独特な仏像が生まれたのです。


<古代ベトナム仏教の中心地>

ザウ寺には多くのインド僧が訪れたといいますが、その中でもインド僧・ビニタルシ(毘尼多流支)は中国で修行した後、580年にザウ寺を訪れ、ベトナム最初の仏教宗派であるビニタルシ禅派を開きました。現在も僧の像が祀られています。また6世紀頃、中国・隋からベトナム北部に仏舎利がもたらされた時、安置されたのはこのザウ寺だったと伝えられています。ベトナムが中国から独立した後も、李朝以降各王朝の信仰を集め、法雲仏に対して雨乞いや雨止めの祈願が行われました。 


<伽藍・内部>

  現在の伽藍は14世紀以降に修築されたもので、「内工外口」型に建てられています。1313年、皇帝チャン・ニャン・トン(陳仁宗)が官吏マック・ディン・チー(莫挺之 Mạc Đĩnh Chiに、現在のような大規模な形の建立を命じたと言われます。「内工外口」というのは、「工」の字形に連結された前堂、焼香、上殿を回廊が囲む、大規模寺院によく見られる形です。寺院に近づくと先ず目に入るのが、回廊と前堂の間に建てられた「和豊塔」です。気候が調和し、豊かな実りがあるようにと願いが込められた名です。現在の塔は高さ17m、一辺が7m四方の三層ですが、昔は九層あったと伝えられ、塔が寺院の中心であった古い寺院の形態を今に伝えています。“人々はどこへ行っても、塔を見るたびにザウ寺にお参りをする”という民謡があり、塔が目立つ存在で、またザウ寺が信仰を集めていたことがわかります。

 「前堂」には護法と八部金剛が祀られ、「焼香」には誕生仏や地獄の十王、マック・ディン・チー、「上殿」に法雲仏が祀られています。この法雲仏は、伝説の当時のものではなく、後世の18世紀頃につくられたもので、女神像が蓮華座に座しています。その手前には、向かって左に侍女“玉女(Ngọc nữ)”、右に“金童(Kim đồng)”という二人の女性の像が置かれています。玉女は、ベトナムの切手の絵に採用されたこともあるという、美しい伝統衣装をまとった穏やかな顔立ちの女性像です。法雲仏は、ベトナム北部の他の寺にも祀っているところがありますが、ザウ寺の像が最も古いものだそうです。

 

    
 どっしりとした印象の和豊塔。
塔の中には四天王が祀られ、
鐘と馨が吊り下げられている。
撮影:2014年7月17日
 塔の手前にある羊の石像。
2,3世紀の漢の時代のものと言われる。
撮影:2003年11月21日


    
 八部金剛(前堂)
撮影:2014年7月17日
護法(前堂)
撮影:2014年7月17日
 


     
 厳かな雰囲気の上殿
撮影:2014年7月17日
 雲の女神像である法雲仏。
その手前の厨子には、
”石光仏”が納められているという。
(上殿)
撮影:2014年7月17日


  侍女・玉女

表情や全身のスタイルの他、
長い髪をまとめ輪状にして頭にのせる
ベトナム女性の伝統的なヘアスタイル、
たくさんの身頃に分かれた丈の長い
スカートなどの服装も興味深い。
(上殿)

撮影:2014年7月17日
  
   


 
 寺の正式名「延應寺」と、
「雨、露、霑(うるお)う、・・」などの漢字が書かれた題額。
撮影:2014年7月17日
 


     
 ザウ寺では、後部の回廊に三世仏や観音像が祀られている。
撮影:2014年7月17日
 


    
 後部の回廊
撮影:2014年7月17日
ビニタルシ像(後部の回廊)
撮影:2014年4月27日
 


 
様々な姿勢、表情で描かれる十八羅漢像(側面の回廊)
撮影:2014年7月17日
 
 






所在地: バクニン省トゥアンタイン県タインクォン社
       xã Thanh Khương, huyện Thuận Thành, tỉnh Bắc Ninh




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